高効率核融合の実現を目指した
高温プラズマの実験研究を行っています。


UTST実験装置
(東京大学柏キャンパス)

主要諸元
プラズマ大半径
プラズマ小半径
アスペクト比
プラズマ電流
電子温度
イオン温度
R~0.35m
a~0.25m
R/a~1.4
Ip<150kA
Te<30eV
Ti<60eV

研究のキーワード:磁場閉じ込め核融合、実験、高ベータ、球状トカマク(ST)、磁場反転配位(FRC)
磁気リコネクション、太陽フレア、地球磁気圏、粒子加速


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核融合発電

■水素などの軽い原子核同士が非常に近い距離まで近づくと核融合反応が発生し、原子核に内包される核エネルギーが解放されます。原子核は正の電荷をもっているため、これらを近づけるためには電気的な反発力(クーロン力)を上回るだけの運動エネルギーが必要になります。つまり、非常に高い温度の電離ガス状態(=プラズマ)を実現する必要があります。地上で利用可能な核融合反応としては、
三重水素(DT)核融合
 D+T→4He(3.52MeV)+n(14.06MeV)
重水素(DD)核融合
 D+D→T(1.01MeV)+p(3.03MeV)
 D+D→3He(0.82MeV)+n(2.45MeV)
ヘリウム3(D-3He)核融合
 D+3He→4He(3.67MeV)+p(14.67MeV)
などが存在しますが、なかでも最も反応が起きやすいのが三重水素を用いたDT反応です。核融合発電には、燃料となる重水素(海水中に存在)やリチウム(トリチウム生成用)が豊富に存在すること、原理的に暴走の危険がないこと、高レベル放射性廃棄物や二酸化炭素等を発生しないことなどの利点があり、将来の大規模集中型電源として期待されています。

【キーワード】eV(電子ボルト):核物理などで用いられるエネルギーの単位。1[eV]=1.6x10-19[J]。水素分子の燃焼によって発生する反応熱(1分子あたり)はおよそ3eVに相当。核融合反応出力はそれよりも6~7桁大きい。

■持続的な核融合反応を発生させるためには、温度、密度、エネルギー閉じ込め時間の3つのパラメータの積(核融合三重積)が大きい状態が必要となりますが、現在最も有力と考えられているのが強い磁場によってドーナツ型のプラズマを閉じ込める「トカマク」と呼ばれる方式です。現在国際協力の下でフランスで建設が行われているITERもトカマク型を採用しています。トカマク型は良好な閉じ込め性能と安定性を両立する配位であり、日本原子力研究開発機構のJT-60Uという装置では、実効的に核融合反応によってエネルギーを取り出すことのできる条件(臨界条件)が達成されています。  

 
トカマク(A=3)のドーナツ型プラズマ形状と、それを取り巻く磁力線(赤線)の例

球状トカマク

■このように優れた性能を有するトカマク型ですが、高い温度・密度のプラズマを閉じ込めるために非常に強い磁場が必要になるため、磁場を作りだす超伝導コイルが大型化し、発電コストが増大するという欠点があります。そこで、比較的小さい磁場でプラズマを閉じ込める(高ベータ値)ために、トカマク型のドーナツを圧縮したような球状トカマクが提案され、実験による研究が各国で進展しています。これまでに、英国のSTART装置で40%のベータ値が達成され、その後継実験であるMAST装置や米国のNSTX装置ではトカマク型に匹敵する閉じ込め性能が実現されています。  
球状トカマク(A=1.5)のプラズマ形状と、それを取り巻く磁力線(赤線)の例

【キーワード】ベータ値:コイルによって作り出された磁場の圧力に対するプラズマの熱圧力の大きさ。ベータ値が大きいほど同じ強さの磁場で高い圧力のプラズマを保持できる。通常のトカマクでは10%程度が限界。
【キーワード】アスペクト比A:ドーナツ型のプラズマの大半径を小半径で割ったもの。小さいほど球状に近づく。

球状トカマクの課題

■ドーナツ型の領域の内部にプラズマ粒子を効率的に閉じ込めるためには、その表面をらせん状の磁力線で覆うことが重要です。トカマク型の装置では、外部コイルによって作り出される大円周方向の磁場(トロイダル磁場といいます)と、プラズマ中を流れる電流によって作り出される小円周方向の磁場(ポロイダル磁場といいます)の合成によってらせん状の磁場を作り出しています。つまり、トカマク型の磁場構造を形成し維持するためには、プラズマ中の電流を駆動する必要があるのです。通常のトカマクの場合は、ドーナツの中心にソレノイドコイルを設置することで、容易にプラズマ電流を駆動できるのですが、ドーナツ中心部のスペースが小さい球状トカマクではそのような中心ソレノイドコイルを設置することが困難です。

■「中心ソレノイドを用いない電流立ち上げと維持」…これが球状トカマクの大きな課題の一つであり、世界中の実験装置で研究が行われています。電流駆動の手法としては、(1) 波動を用いる手法、(2) ヘリシティ入射を用いる手法、(3) プラズマ合体を用いる手法、の3つの手法が主に研究されていますが、日本・中国・韓国で稼働している6台の球状トカマク実験グループでは、による共同研究を実施しています。我々のグループでは、このうち (3) プラズマ合体を用いる手法の研究開発を行っています。

プラズマ合体と磁気リコネクション

■UTST装置では、上下二か所の外部コイルを用いて低ベータの初期球状トカマクを2個同時に生成し、これらを装置中央部で合体させることによって短時間で高ベータ球状トカマクを形成することを目指しています。


プラズマ合体による高ベータST立ち上げの概念

■なぜプラズマ合体が高ベータ化につながるのでしょうか? 2つの初期球状トカマクの磁力線は、それぞれが閉じた磁気面を形成していますが、プラズマ合体の際には磁力線同士がつなぎ変わる必要があります。このようなつなぎ変わりのことを「磁気リコネクション」と呼びます。非常に高い導電率を有するプラズマ中では磁束凍結が成り立つため、磁力線のつなぎ変わりは起きないと考えられるのですが、実際には非常にミクロな電子スケールで、磁束凍結が破れることによって磁気リコネクションが進展します。 

■自然界における磁気リコネクションの例の一つが太陽フレアです。高温の太陽コロナ中に蓄えられた磁気エネルギーが磁気リコネクションの際に一気に解放されることによって、太陽表面で発生する大規模な爆発現象が太陽フレアです。UTST実験グループでは、太陽観測グループと磁気リコネクションに関する共同研究を行っています。

■磁気リコネクションの際に、プラズマ中の磁気エネルギーが熱エネルギーに転換されるため、これを磁場閉じ込め核融合に応用することによってベータ値の大幅な改善が期待できます。UTST装置では、プラズマ合体法を用いることによって、中心ソレノイドや他の加熱装置を用いずに高ベータ球状トカマクを形成することを目指した実験研究を行っています。


UTST装置におけるプラズマ合体の様子

UTST実験における研究課題

■球状トカマク合体生成におけるエネルギー変換効率の改善・高ベータ化の実現
精密な磁場計測、電子温度・密度計測、イオン温度・流速計測、波動計測を総合して、エネルギー変換過程を定量的に解明します。初期球状トカマクの生成および合体過程の最適化を行い、効率的な高ベータ化を実現します。
■合体生成高ベータ球状トカマクにおける流れの効果の解明
圧力勾配が非常に大きく、その特性長がイオン慣性長よりも短くなるような高ベータ球状トカマクは二流体平衡として記述され、電流と磁場だけでなく流れの効果が重要となります。プラズマ流の分布を観測することにより、流れが高ベータ平衡とその安定性について検証します。
高ガイド磁場無衝突リコネクションにおける高速化機構の解明
球状トカマクの合体時にはリコネクションするポロイダル磁場に直交する非常に強いトロイダル磁場(ガイド磁場)が存在しており、リコネクション機構自体が大きく変容します。電流シート構造の微細計測などを通して、ガイド磁場リコネクションの機構を解明します。
■高ガイド磁場無衝突リコネクションにおける電子加速・加熱機構の解明
強いガイド磁場の存在が、リコネクション電場による直接的な粒子加速を生み出します。電子の速度分布を計測してその生成過程を解明すると同時に、高速電子由来の不安定性についても検証します。
■中性粒子ビーム入射による高ベータ球状トカマクの追加熱と維持の実現
合体生成された高ベータ球状トカマクを中性粒子ビーム入射によって維持・追加熱することができれば、高ベータ球状トカマク型核融合炉の現実的なシナリオを描くことができるようになります。合体生成された高ベータ球状トカマクの密度・電流を増加させ、柏キャンパスにある2機の中性粒子ビーム源を用いて2MW程度の入射を行います。
■分光法によるリコネクション電場の直接測定(共同研究)
UTST装置で発生する高ガイド磁場リコネクションでは、プラズマ中に1kV/mを超える強い電場が過渡的に発生すると考えられます。原子が発するスペクトル線が分裂するシュタルク効果を用いて過渡電場の直接計測法の実現を目指しています。
■マイクロ波散乱による密度揺動観測法の開発(共同研究)


その他の研究テーマ

極限的高ベータ配位・磁場反転配位(FRC)の自己組織化と性能改善(共同研究)
高ベータを極限まで追求した磁場閉じ込め配位が磁場反転配位(FRC)とよばれるもので、100%に近い磁場利用効率を有する反面、プラズマを長時間維持することが困難とされてきました。現段階での性能は決して優れているとはいえませんが、本質的に高い潜在能力を有しており、うまくいけば究極的な核融合炉心プラズマとなりえます。本研究室では、磁場反転配位の安定化、中性粒子ビームを用いた追加熱、低周波波動によるイオン加熱現象などの実験的検証を実施しています。磁場反転配位の内部には磁場がゼロとなる地点が存在し、波動励起の際には線形近似が成り立たないような複雑な挙動をすることが予測されており、基礎プラズマ物理として天文分野との関連性も注目されています。磁場反転配位と前述の球状トカマクとは、歴史的には全く異なった装置・実験手法として発達してきたのですが、近年になって両者の中間的な領域の存在が指摘されており、両者は全く別個のものではなく連続的につながるような概念なのかもしれません。新型装置UTSTを中心とした実験を通して、両者を統一的に取り扱い、超高ベータ領域に新たな可能性を探求しています。
内部電流系トーラス技術を応用した無電極プラズマ推進の開発
プラズマ柱を貫く磁場をイオンサイクロトロン周波数よりも高速に回転させることによって、プラズマ中に周方向電流を発生させることができます。発散磁場下においてこのような周方向電流を維持することができれば、ローレンツ力による定常的な軸方向推力を発生させることができ、電極を用いないプラズマ推進(スラスタ)が実現できると考えられます。