異極性合体を用いた逆転磁場配位(FRC)の高効率生成
合体によるFRC生成とCSコイルによる磁束増倍
小野 靖
(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
Merging Formation of FRC and Its Current Ramp-up by CS coil
ONO Yasushi
Graduate School of Frontier Sciences, University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656, Japan
FRCの合体生成は1990年頃に東京大学TS合体実験装置で開発され、過去10年高効率のFRC生成法として米国を中心に広がり、現在ではFRC実験の多数派に成長した。その利点は、1) テータピンチより1桁高い電源生成効率(低速電源による生成)、2) NBI入射に適した高磁束FRC生成の容易さ、3) リコネクションによるMWクラスのプラズマ加熱、 4) 中心対称軸上のセンターソレノイド(CS)コイル設置による電流駆動・増倍等であり、FRCが減衰するだけの短パルス実験を脱却する契機となった。
Keywords: FRC, efficient/ slow formation, magnetic reconnection, ion heating, CS current amplification
1 はじめに
FRCの合体生成は、東京大学TS実験で開発された日本発のアイデアである。1990年には合体による低速生成とセンターソレノイド(CS)コイルによる電流増倍と組み合わせることにより、従来減衰するだけであったFRC実験に初めて電流増倍・維持を実現した[1]。電源生成効率が低く、大型化が困難なテータピンチ方式から脱却し、プラズマパラメータを損なわずに低速生成を実現する方式として注目され、過去10年、この方式を採用する新装置が米国を中心に次々建設され、現在ではコロラド大学、スワルスモア大学、プリンストン大学、NASAなど装置の数ではFRC生成法の多数派に成長している。
2スフェロマック合体によるFRC生成
合体生成は図 1(A)のように互いに逆向きのトロイダル磁場(磁気ヘリシティ)を有するスフェロマックプラズマ2個を軸対称合体させて、トロイダル磁場(磁気ヘリシティ)を打ち消し、熱エネルギーに変換することによりベータ~1のFRCを形成する。Fig. 1(B)のように安全係数0.5程度の逆向きヘリシティのスフェロマック同士の磁力線は再結合によってトロイダル方向に半周程度引き延ばされた輪になり、それが緩和する間にトロイダル磁場エネルギーがイオン運動・熱エネルギーに変換される。図 1(B)では、合体と共に赤、青で示された互いに逆向きのトロイダル磁場が消えると同時に、内側で負、外側で正のトロイダル方向の流速が駆動され、当初10eV程度であったイオン温度が合体直後に200eVまで急増する様子がわかる。トロイダル方向の流速はリコネクションアウトフローであり、その速度はアルヴェーン速度に近く、これがイオン粘性ないしファーストショックによってイオン熱エネルギーに変換されることがわかってきた。磁気エネルギーからイオン熱エネルギーへの変換効率は、Fig. 2(A)に示すとおり、230Jの磁気エネルギー損失の内、180Jがイオン熱エネルギーとなっており、合体のみの効率は80%にのぼる[1,2]。これは図.1(B)の磁力線図のように、リコネクション点が常に再結合を終わった閉じた磁力線に厚く囲まれるためである。アウトフローの運動熱エネルギーは概ね閉じた磁気面内に閉じこめられており、内部磁場と外部磁場とのリコネクションであるRFPの鋸歯状波振動のイオン加熱分が容易に維持されない現象とは一線を画している。
図1(A) スフェロマック合体を用いたFRC生成とCSコイルによる電流増倍の原理、 (B)ポロイダル磁気面とトロイダル磁場(正を青、負を赤で表示)(左)とトロイダル流速とイオン温度の半径方向分布(右)[1,2].
3 合体生成・電流増倍法の利点
合体・リコネクション加熱の特徴は、再結合する磁場成分のエネルギーを高効率で変換する点、FRCのエネルギー閉じこめ時間に対応する短時間(異常抵抗を考慮したSweet-Parker時間)の加熱も可能である点である。その大きさはアウトフロー速度がアルヴェーン速度であることから、再結合磁場の2乗に比例する。図2(B)にTS-3実験の結果を示すが、このスケーリングが確認できる。合体方式の利点は、
1)低速電源を用いた高い電源効率の生成、
2)磁気リコネクションによる大きなイオン加熱、
3)初期磁束が極めて大きく、NBI導入に便利
4)CSコイルによる更なる電流・磁束増倍が可能
などである[1]。スフェロマックはテイラーの磁気エネルギー極小といわれる安定状態にあるため、安定状態近くを推移する生成により、低速電源を用いることが可能で、電源生成効率はテータピンチ法の数倍から10倍程度である。合体はFRCの閉じこめ時間程度に高速化させても生成効率は低下しないので、最終的な電源生成効率はテータピンチ法:1-5%, スフェロマック合体法:10-20%が典型値である。また、テータピンチ法ではFRCのプラズマ径を大きくすると不安定になるため、同じ電源エネルギーに対して合体法で概ね1桁大きい磁束が生成でき、今後のNBI実験に好適である。
図2. (A) FRCの合体生成とCSコイルによる電流増倍過程におけるエネルギーの流れ、(B) 合体・リコネクションによるイオン加熱の磁場スケーリング [1,4]
4 CSコイルによるFRCの電流・磁束増倍
テータピンチ法と異なり、低速の合体生成法では中心対称軸上にセンターソレノイド(CS)コイルの設置が可能である。そのままでもテータピンチ法より1桁大きいFRC磁束をさらに増倍することが可能である。図 3はTS-3装置で合体生成したFRCのトロイダル電流をCSコイルのループ電圧Vloopで増倍させた実験結果である。Vloopを540Vまで上げると、FRCのトロイダル電流が約2倍に増倍されていることがわかる。平衡磁場一定の条件下、電流増倍により磁気軸の位置も外側にシフトしている。この際、問題となるのは、FRC内部での熱エネルギーと磁気エネルギーのバランスである。CSコイルは主として後者を注入するため、徐々にベータ値が低下してしまう。実際、電流増倍中のFRCの電流分布は次第にピークし、磁束増倍をさらに続けると微視的不安定が発生してFRCの電気抵抗が急増し、熱エネルギーが補われることがわかってきた[6]
図3 合体生成されたFRCをCSコイルで電流増倍した時(ループ電圧を0-540V間で変化)のポロイダル磁気面とプラズマ電流の時間変化 [1]
5 ロバスト安定性の発見から将来展望へ
低ベータスフェロマックによる超高ベータFRCの生成により、これらCT同士の安定境界の存在が明らかになると共に将来の大型化への課題が見えてきた。図4では逆向きトロイダル磁場を持つ2個のスフェロマックの磁気ヘリシティの和をテイラー状態の値で正規化してKnormと表し、Knormを0(2つのトロイダル磁束・ヘリシティが逆極性・同一で完全に打ち消す)から1(片方のスフェロマックだけのヘリシティーが存在)までを変化させた。すると、境界値KB~0.3程度より上ならばTaylor理論通りエネルギー極小状態のスフェロマックに緩和するものの(図4(b))、KB以下ではトロイダル磁場が消滅してFRCへ緩和することがわかった(図4(a)) [3,5]。図 4(c)(d)で詳細に調べても、KB以上では固有値l0=rBt/Y(r;半径、Y;ポロイダル磁束)はTaylorの理論値に近づき、スフェロマックに緩和するが、KB以下では固有値はゼロとなり、FRCに緩和する。イオン温度やベータ値も前者で低く、後者で高いといったように対応しており、FRCにもスフェロマックの磁気エネルギー極小状態と同様なロバストな安定性があることが明らかになった[3,5]。
反面、FRCへ緩和する境界値KBは、イオンラーモア半径に対するプラズマ径(s値)が大きくなるほどゼロに近づき、FRCに緩和する領域が極めて狭くなる問題が明らかになった [3,5]。ラーマ半径に比べて実験が大型になるほどFRCは生成しづらく、生成しても安定に保ちづらいのである。事実、図 5にCSコイルのない場合のFRCの中心対称面(トロイダル断面)の軸方向磁場分布とトロイダルモードの大きさを見ると、s値が大きいとn=1モードが成長して配位が崩壊し、s値が小さいとプラズマが高速回転してn=1モードは飽和する。s値を何らかの形で下げれば、安定性は運動論的効果によって保たれる。例えば、動作ガスを重くしてイオンラーモア半径を大きくすれば安定性は著しく改善し、FRCへの緩和領域は広がることがわかった[5]。将来のFRCの大型化には、NBIによりFRC内部のフローを駆動し、低sのプラズマ成分を形成する必要である。現在、次のステップとしてNBIや連続合体によるFRCへのフロー導入が準備、提案されている。東京大学TS-4実験は産業総合研究所の協力により、FRCのNBI入射を準備中であり、プリンストン大学MRX実験でも合体生成FRCへのNBI導入:SPIRIT実験計画が提案されている。
図4異極性合体スフェロマックの合体前総ヘリシティーKnorm(テーラー状態のヘリシティーで正規化した値)が境界値KBより小さい時(a)、大きい時(b)のポロイダル磁気面とトロイダル磁場の軸方向分布 (r=18cm) の時間変化および、合体・緩和後のポロイダル固有値 l=rBt/Y (c)と合体前後のイオン温度 Ti (d)の合体前Knorm依存性 [3].
図5 2種類の:(a) 6.4, (b) 2.9 を有するFRCの軸方向磁場のR-q 平面分布およびこの時のR=10cmにおけるの n=1 トロイダルモードの時間変化.
参考文献
[1] Y. Ono, Fusion Energy 1996 2, 263, (1996); Phys. Fluids B 6, 3691, (1993).
[2] Y. Ono et al., Phys. Rev. Lett. 76, 3328, (1996); Phys. Plasmas 4 1953 (1997)
[3] Y. Ono et al., Nucl. Fusion 39, 2001, (1999).
[4] Y. Ono etal., Nucl. Fusion 43, 489, (2003).
[5] E. Kawamori, Y. Ono, Phys. Rev. Lett. 95 85003, (2005).
[6] E. Kawamori, Y. Ono et al, Nucl. Fusion 47, 1232, (2007)