研究課題

人口爆発、環境破壊、資源枯渇のため現代文明は危機に直面するといわれ、CO2を大量放出する化石燃料から、環境保全性が高く、無尽蔵の資源量が見込める核融合エネルギーへ基幹エネルギーの早期大転換が待たれています。今や温暖化対策は待ったなしで時間が大切です。投入エネルギーが発生エネルギーに等しくなるまで進歩し(科学的実証)、いよいよ国際熱核融合炉ITER(工学的実証)へ進展した核融合の将来の課題は、如何に経済性を高め、コンパクト化をはかるか、カーポンニュートラルに間に合うように如何に実用発電を早めるかです。発電炉は、少ない磁場で多量のプラズマが閉じこめられる、いわゆるベータ値(単位磁界が閉じ込めるプラズマ熱圧力)の高い、高効率な磁気閉じ込め配位が実現できるかが鍵です。 我々はこれまで核融合の経済性を飛躍的に高める「球状トーラス」等の新アイデアの実証TS-3球状トーラス実験装置で行ってきました。米国、欧州も大型実験装置NSTX(Princeton大学)、MAST(Culham研究所)が運転中で、核融合研究は簡素さ、経済性を重視する球状トーラスへ大きな流れを形成しています。実験の成功により、2004年にTS-3を3倍にスケールアップしたTS-4球状トーラス実験装置、更にプラズマ合体による急速加熱法のトカマク炉への適用のため2008年にUTST球状トカマク実験装置が拡充されました。2016年からは,合体・リコネクション加熱で核融合点火を目指す大型プロジェクトがはじまり,高磁場合体対応のため,本郷のTS-3, TS-4両装置をTS-6 (TS-3U). TS-4Uトーラスプラズマ合体実験装置へアップグレードしました。また,合体加熱で簡便に500万度の高イオン温度を出したことから,このアイデアを英国MASTに持ち込み,日英共同実験で1200万度を達成しました。この成果はMASTの研究者による英国ベンチャー企業Tokamak Energy社の設立と新たな高磁場合体実験ST-40の建設につながり,全面協力しています。ベンチャー企業の早い意志決定により,温暖化対策に間に合う核融合炉の早期実現の可能性がでてきました。水から発電できる核融合炉が実現できれば,逆に自然破壊を起こしかねない無理なカーポンニュートラル義務も既存の電力ネットワークをそのまま用いて容易に解決できます。現在,コロナ問題の影響も受けつつも,日英共同実験をスタッフ,学生の英国派遣でサポートし,ベンチャー企業で核融合炉の目安となる1億度を簡便な合体だけで達成する目標を実現しつつあります。

研究課題は、プラズマ工学、プラズマ物理学を基礎として、

次世代核融合エネルギー開発 –核融合炉の経済性向上–

を中心に据え,

  1. 高磁場合体加熱を用いたトーラスプラズマの急速加熱・点火
  2. 球状トカマクの超高ベータ化・コンパクト化
  3. 逆転磁場配位の高効率生成・最適化
  4. ベータ値の極限の追求と球状トーラスの最適化
  5. 磁力線・プラズマ現象を解明するモデル実験
  6. 太陽・宇宙プラズマの解明と利用 −−実験室天文学–
  7. プラズマ計測法の開発
  8. プラズマ工学応用

の8分野をカバーします。

現在、1.は2015年にはじまった大型プロジェクトTS-U実験です。2.−5.の進展をはかる一方で、6.,7.分野の研究に研究分野が広がっています。

使用するテクニックは、大型プラズマ実験と計算機シミュレーションです。実験は、TS-3,TS-4球状トーラス装置を中心に進めてきましたが、これまでの合体・磁気リコネクション研究の成果が認められ、2015年に磁場を5倍にスケールアップした大型プロジェクトTS-Uが認められ、本郷のTS-3, TS-4両装置をTS-Uへ一新しました。再結合磁場の高磁場化によって,合体・磁気リコネクションの急速加熱を急速に高めて加熱メカニズムを明らかにし,最終的に核融合炉の点火へを目指しています。シミュレーションは、核融合科学研究所堀内教授,宇佐見准教授に全面的に協力頂き,最先端の大規模粒子シミュレーションを行って,実験に役立てています。

この3台に加え、世界最大の規模を有する英国MAST実験装置を用いた合体・リコネクション加熱の実証実験も進み、国際共同研究ネットワークを生かした実証実験が急進展しています。特に,トカマク合体の急速加熱を核融合炉点火に高める東大のアイデアは英国のベンチャー企業トカマクエナジー社に採用され,実証のため,数億円をかけて新装置ST-40球状トカマク装置を建設中で,東大と共同で設計を行い,実験・計測も共同で行う予定です。

また、実験を行う際、大切なのがプラズマ計測法です。新しい2次元・3次元プラズマ画像計測法の開発も精力的に行っており,既にライン光のドップラー広がりとコンピュータトモグラフィーを用いた2次元イオン温度計測は新規性が高く,2016年度の受賞につながり,レーザの往復反射と飛行時間差を用いた2次元トムソン散乱計測はすでに米国のプラズマ計測法の教科書をはじめ,各種解説記事にも取り上げられています。