次世代核融合エネルギー開発 –核融合炉の経済性向上–

無尽蔵な核融合エネルギー、中でも、中性子による放射化の心配がなくクリーンな未来型核融合であるD-He3核融合やD-D核融合への転換が果して可能か、そのために必要な超高温(核融合)プラズマを磁力線で効率よく閉じ込める技術が開発できるかが課題です。

そのために必要とされる、これまでになくベータ値の高い(単位磁界で閉じ込められるプラズマ熱圧力が大きい)、高効率な磁気閉じ込め配位は実現できるのか、その平衡、安定性、閉じ込め性能はどうか、を考えます。

特に興味ある課題として、

「磁力線で作った閉じ込め容器”は何が最適か?」
「磁気容器の変形(不安定)や磁力線のつなぎかわり(再結合)はなぜ発生し、磁気容器にいかなる影響を与えるのか?」

等、実験を中心に核融合炉のキーとなる問題を解明していきたいと思います。

今までにない高ベータ、高閉じ込め特性が必要

研究テーマは経済性を重要視した次世代核融合磁気閉じ込め方式を創造していくもの、そのためのキーを解明していくものです。

現在追求中の方法は、球状トカマク(ST)と逆転磁場配位(FRC)が中心です。どちらもコンパクトに圧縮されたドーナツ状のプラズマですが、下図のようにSTはドーナツの大円周方向(トロイダル方向)および小円周方向(ポロイダル方向)の磁場を持つのに対し、FRCはさらに簡単に小円周方向の磁場のみを持つのが特徴です。

  • STはトカマクの良好な閉じ込め時間を保ちつつ、効率を改善する試み
  • FRCはスタートに戻って革新的な高ベータ配位を狙う試み

といえるでしょう。

球状トカマクとFRCとトカマクの磁力線の様子

1. 球状トカマクの超高ベータ化・コンパクト化

トカマクの経済性、即ちベータ値を飛躍的に高めるため、ドーナツ型のプラズマ形状をギュッとコンパクトにします。この低アスペクト比トカマク、球状トカマクは、安価な核融合炉を実現する有力候補として近年、急速に注目が集まっています。我々はこの80年代後半の最も早い時期に、この球状トカマク(ST)をTS-3装置で生成し、研究に着手しましたが、近年は安価な核融合炉を実現する最有力候補として注目されています。

さらにSTを、プラズマ合体=磁気リコネクション(磁力線再結合)という独自手法によって急速加熱してベータ値(プラズマ熱圧力/磁気圧)を急上昇させ、従来の常識(10%)を大幅に越える60%のベータ値を持つSTの生成に成功しました。少ないコイ

ル電流でより多くのプラズマの閉じ込めを可能にする超高ベータ球状トカマクが安定に生成できたのは、これまでベータ値の上限を決めていたバルーニング不安定が抑制される、いわゆる第2安定状態が初めて実現されたためと考えられ、今後の発展が期待されています。

次は、第2安定化状態が持続するのか、安定ならばそのメカニズムは何か、電流駆動型不安定は大丈夫なのか、果たしてこの超高ベータトカマクが「ものになるのか」を確かめることです。

合体加熱される球状トカマクプラズマ(東京大学UTST)

球状トカマク炉の概念図
球状トカマク炉の概念図

放電中の写真(START)
放電中の写真(START)

2. 磁場反転配位(FRC)の高効率生成と高度化

ベータ値の低い核融合プラズマでも2個合体させると、急速に加熱されてベータ値の極めて高いFRCへ遷移する現象が見つかりました。この方式は経済性の高いFRC生成法として世界的に注目され、 現在、経済性の高い大型FRC生成法として世界の主流になりつつあります。米国ではFRCのベンチャー企業が設立され、大型FRC合体実験に結びつくなど波及効果も大きい実験課題と言えます。

FRCは従来、100%近く超高ベータを持つ唯一

のプラズマで魅力的だったものの、こうしたプラズマを生成する効率が1%以下と極めて低かったため、研究が停滞していました。我々は、生成効率の高いスフェロマックプラズマを2個生成し、互い逆極性に設定したそれらのトロイダル磁場を合体によってうち消して零にすることによってFRCが生成できることを発見した。この手法により、トカマクと同様の土俵でFRC研究を進めることが可能となりました。

問題は、ベータが100%と炉としては極めて有利なFRCを安定に長時間維持できるか?です。まずFRCの傾斜型をはじめとする不安定の特性とその安定化について検証を進める必要があるといえます。Taylorの磁場エネルギー極小の自己組織化を大きく超える超高ベータかつ運動論的な自己組織化現象として、FRCへの遷移が生じるメカニズムを解明するとともに、このFRC生成法の将来性を評価しています。

3. プラズマの磁力線はなぜつなぎかわるのか?
-核融合プラズマに共通するキーの解明-

そもそも「磁力線で作った”閉じ込め容器”は何が最適か?」、「磁気容器の変形(不安定)や磁力線のつなぎかわり(再結合)はなぜ発生し、磁気容器にいかなる影響を与えるのか?」等、核融合炉のキーを抽出したモデル実験を組み、解明を試みています。プラズマ中の磁力線のつなぎ変わり:磁力線再結合現象の実験解析は典型例です。同現象は、核融合プラズマの閉じ込め悪化を招いたり、大きな加熱効果が得られたり、悪玉にも善玉にもなるため、その制御は重要です。

近年の研究により、プラズマ中に古典理論では説明できない異常抵抗が発生し、磁力線がつなぎ変わり、同時にイオンが選択的に加熱されることがわかってきました。磁気リコネクション現象を用いれば小型実験でも超大型実験なみの数十MWという巨大なプラズマ加熱パワーが得られることが判明し、うまく用いると極めて核融合炉にとって極めて有用であることがわかってきました。今後はこれをどのように有効に利用していくかが課題といえます。核融合炉の一部分を切り取った模擬実験によって問題点を解明する近年注目されている実験です。

プラズマ合体を用いた我々の実験は米国Princeton大学をはじめ、多くの新装置建設に結びつきました。現在教員・学生の相互訪問、共同実験が盛んに行われ、2010年、東大を中心とする国際COE組織CMSOが結成され、国際共同研究が急進展しました。

この分野は、核融合プラズマの物理とともに、関連する宇宙プラズマの物理をも解明する意味で「実験室天文学」と呼ばれ、急成長しています。詳しくは、「太陽・宇宙プラズマの解明と利用 −−実験室天文学–」をご覧ください。

4. トーラス閉じ込め配位の最適化

ST, FRC, Spheromak, RFPのすべてが生成できるTS-3/TS-4実験装置の特徴を生かして、すべてのトーラス型核融合閉じ込め配位を単一装置で比較するプロジェクトが進行中です。従来、これらの核融合プラズマ磁気閉じ込め方式は個別の装置で性能の追求がなされてきたため、各々の方式の得失がはっきり現れない欠点があった。単一装置での配位の相互比較により、1)問題点の抽出と2)それに基づいた最適の閉じ込め配位の模索を行ないます。