合体・リコネクションを用いた急速加熱・核融合炉点火

合体・リコネクション加熱と核融合炉点火

プラズマ合体実験は古くはWellsの実験に始まり、コンパクトトーラス研究として研究が存在するが、1980年代後半からはプラズマ合体・リコネクション加熱に着目した東大TS-3合体実験、1990年代には英国START実験、2000年代には東大TS-4, UTST実験、英国MAST実験などが行われてきた。 近年の研究で明らかになった点は、単なる物理現象と考えられることも多い磁気リコネクション現象や合体現象が実際に核融合プラズマの加熱・点火に役立つことである。近年注目される1)磁気リコネクションによるMW-GWクラスのプラズマ加熱、核融合反応点火, さらに2) 超高ベータプラズマの急速生成、3)STプラズマの電流駆動・磁束増倍、分布制御、4) 燃料補給とヘリウム灰の排出など,はじめての応用の試みが進んでいる。

1. はじめに

プラズマ合体研究自体は、古くは1960年代にWells [1]の実験からスタートし、長い歴史を有する。トロイダル磁場コイルがないコンパクトトーラスでは電流駆動などの目的で研究がなされてきた反面、トカマクプラズマの合体実験は1980年代までは実質行われていない。トカマクプラズマとトカマクをギュッとリンゴのようにコンパクトにした球状トカマクはコンパクトトーラスに比べると強いトロイダル磁場Bt(大円周方向磁場)を有するのが大きな差である。唯一、静的なダブレット配位がDIII実験で実現しているものの、合体・磁気リコネクションは行われなかった。2個の球状トカマク(ST)プラズマの合体実験やその境界に発生する磁気リコネクションに意識されるのはTS-3実験が本格化する1980年代後半以降[2]である。90年代に入ると英国START実験[3]でST合体が試みられるがSTの磁束確保が目的であり、磁気リコネクション加熱のメカニズムがわかり、その本格的な利用が始まるのはごく最近のことである[4]。

トーラスプラズマ合体方式の新アイデアは、

1)MW-GWに達する極めて大きな磁気リコネクション加熱[4,11]

2)Sweet-Parker時間[12]以下の短い加熱時間と合体を用いた超高ベータ状態生成[14-16]

3)合体による電流・磁束増倍・電流分布・熱圧力制御[16.17]

4)合体を用いた燃料補給とヘリウム灰排出 [18]

などである。特に磁場エネルギーの20%を超える大きなエネルギーを熱エネルギーに変換し、その加熱時間がエネルギー閉じ込め時間や不安定の成長時間以下にできる点は大きな特徴であり、その利点の生かし方は今後の研究次第といえる。近年、こうした点が実証されたため、独立して合体応用が取り上げられるのも本論文が初めてである。本章では、合体現象の特徴がどのように明らかにされ、具体的にどのような応用研究が進んでいるのかをまとめてみたい。

2. 合体を用いたトーラスプラズマ加熱[4,11]

ドーナツ状のトーラスプラズマの合体で最近注目される話題は、その巨大で短時間の加熱機構が明らかになったことである。リコネクション研究[12]としてもその加熱機構は謎が多く、特にイオンと電子がどのような機構でどれくらい加熱されるのかが実験的にわからなかった。最も単純なケースとして2個の球状トカマクSTを軸対称合体させる場合を考えよう。合体面には、Fig. 1やFig. 2の磁気面のように反平行な磁力線が対抗し、磁力線のつなぎ代わり、即ち磁気リコネクションが発生する。まず、反平行の磁力線の間には電流シートが形成されて(磁束凍結の原理)、磁力線の再結合を妨げる。しかし、電流シートには古典抵抗に加えて、ドリフトキンク型不安定などの何らかの不安定が発生して抵抗拡散[13]するので磁力線はX状に交わってつなぎ変わるのである。磁気リコネクションは、上流側(Fig. 1で上下方向)の磁力線とプラズマがインフローとして電流シートに集まり、反平行の磁力線がつなぎかわるとV字状になって丁度磁力線の張力がパチンコのひものようにプラズマを加速しながら下流側(Fig. 1で左右方向)へアウトフローとして流れていく。反平行の磁力線が再結合で打ち消し合い、消滅した磁気エネルギーがプラズマのアウトフローの運動エネルギーに変換されるのである。

Fig. 2ではTS-3装置において2個の球状トカマク(ST)を合体させた時、(a)磁気プローブ列で直接計測した磁気面と(b)トロイダル磁場の径方向分布に加え、(c)2次元ドップラー計測で測ったイオン温度分布と(d)静電プローブで計測した電子温度分布を示す[4,11]。アウトフローとして電子とイオンを同じく加速すればより大きなエネルギーを得るのはイオンといえる。アウトフローは下流でつなぎかわりを終えて集まっている磁力線に衝突してプラズマをパイルアップさせ、ついにはファーストショックを形成しながら熱化すると考えられる。Fig.2(c)では、イオン温度がリコネクション下流の2カ所で加熱されていることがよくわかる[4,11]。これに対して、電子は質量が軽いため、アウトフローではあまり加熱されず、電流シート内で加熱されることがわかった。確かに図2(d)で、電子温度は電流シート内のX点付近にピークしている[4,11]。電子は質量が軽いので逆に電界がある場所ではイオンより加速されやすく、電流シート内で加速・加熱されるのである。しかし、細く小さな電流シートの体積はリコネクション下流領域よりも遙かに小さく、電子加熱エネルギーはイオン化熱エネルギーの1桁下程度である。大半径0.2m程度のTS-3実験では低Z不純物の放射損失のため、電子温度がそれほど上がらないが、本来、磁気リコネクションによって電子温度はもっと上昇しうることが最近のMAST装置における大型合体実験によって明らかになった。ただ、電子加熱がイオン加熱の1ケタ下であることに変化はなく、厳密には、イオン加熱機構の立証にはイオン加速とその熱化機構の確認が不可欠であった。リコネクションアウトフローはX点の両側に流れ、その速度は概ねアルベーン速度の80%程度に当たる。その速度が両側下流のパイルアップ領域(ファーストショック領域)で急に小さな値になり、電子密度と磁場強度は急に値が急増し、同じ場所でイオンは大きく加熱される。リコネクション下流領域でのファーストショックの形成が強く示唆される。リコネクションがアウトフローをアルベーン速度に加速し、ファーストショックを形成して恐らくイオン粘性も手伝って熱化することにより、大きなイオン加熱が得られていることがわかる。

Fig.2 の球状トカマクのリコネクションはFig. 1(a)のようにリコネクション点に対して紙面垂直のトロイダル磁場(ガイド磁場という)を持つのに対して。Fig.3は,互いに逆向きのトロイダル磁場を有するスフェロマックと呼ばれるドーナツ状のプラズマを合体させている。この場合は,Fig. 3(a)のようにリコネクション点のトロイダル磁場はゼロである。さらに小円周方向磁場:ポロイダル磁場Bpの一部だけでなく,大円周方向磁場:トロイダル磁場Btすべてが再結合するのが大きな特徴である。リコネクション加熱に使われる磁場エネルギーの割合が球状トカマクSTに比べて大きく,同じポロイダル磁場で比べれば大きなイオン加熱が得られる。Fig.3(b)では,わずか15µsecの間に10eVの初期イオン温度は,220eVまで加熱されていることがわかる。この間にFig.3(d)に青色,赤色で示すトロイダル磁場は消滅していることがわかる。この時,リコネクションで再結合する磁力線はFig. 3(a)のようにリコネクション面に垂直なトロイダル方向にも粒子を加速していることがわかる。

Fig. 4は、3種類のST合体・非合体の場合について、イオン温度、電子温度、熱エネルギーの時間変化を示す。高qST合体、低qST合体、単独の高qSTの場合を比較すると、合体により数MWの加熱が簡単に得られることがわかる。イオン温度上昇は電子温度上昇に比べて一桁近く大きく、リコネクション加熱はほとんどイオンのアウトフロー加熱である。厳密に言えば、Fig. 2(c)の電流シートのイオン温度はインフロー領域よりも少し高い。イオンと電子の軌道の大きさの違いのため、電流シート付近を計測すると負のポテンシャルを持つとの報告があり[19]。電界加速によるイオン加熱効果も存在している。

ST合体加熱の優れた点は、加熱されたイオンの損失は極めて小さく、短いリコネクション時間の間にプラズマを高ベータ化できることである。この理由は図2(a),図3(a)の磁気面を見ればよくわかるように、プラズマ合体は周辺磁束からコア磁束への順に進行し、常に大きなイオン加熱を生むX点領域は丸ごと再結合を終了した閉じた磁束に厚く囲まれているためである。内部磁場と外部磁場とのリコネクションであるRFPの鋸歯状波振動のイオン加熱分が容易に維持されない現象とは対照的である。TS-3実験では、磁気エネルギーの減少分145Jに対してイオンエネルギー増加分は128J、電子エネルギーエネルギー上昇分10J程度であまり損失がない。リコネクション時間がエネルギー閉じ込め時間に比べてかなり短い時間で行われることもその理由の1つである。リコネクション時間はSweet-Parkerモデルによって見積もられたインフロー速度が基準となるが、電流シートの異常抵抗分を考慮した修正Sweet-Parkerモデルで概ねの見積ができる。

STプラズマの加熱への応用を確立する際、大切な点は、どの程度の再結合磁場でどの程度の加熱が得られるのかを決める加熱スケーリング則である。Fig. 5にイオン温度上昇分の再結合ポロイダル磁場依存性を示す[4,11]。電子密度はほぼ一定かつ、リコネクション加熱は殆どイオン加熱なので、イオン温度上昇はほぼ従ってリコネクション加熱エネルギーに比例する。Fig. 5からは、明らかにイオン温度上昇分は再結合ポロイダル磁場の二乗に比例することがわかる[4,11]。Cohelicityとあるのはトロイダル磁場が同方向の2個のSTを合体させる場合でFig.1の合体加熱そのものである。一方、CounterhelicityとあるのはFig. 3(a)のようにトロイダル磁場が逆向きの2個のスフェロマックを合体させる場合で、ポロイダル磁場だけでなくすべてのトロイダル磁場が再結合するので加熱源がトカマクの場合の倍以上になるため、同一のポロイダル磁場で比較すると2-3倍程度の加熱となる[14]ものの,再結合磁場をポロイダル磁場とトロイダル磁場両方で定義すれば,全く同じ依存性・スケーリング特性を示すことが分かってきた。二乗に比例する理由は、リコネクションアウトフロー速度が、大凡アルヴェーン速度(磁場に比例)であることから、その運動エネルギーは再結合磁場の二乗に比例すると考えられる。

リコネクション加熱のスケーリング則は、大きさによらず磁場の二乗でイオン加熱が急増することを意味しており、kGオーダーの磁場で合体実験を行えば、keVを越えることを意味している。そこでSTとしては最大規模を持ち、合体運転が可能な英国MAST実験装置で日英共同合体加熱実験を行った。表1に示すようにMAST装置はTS-4, UTST実験のほぼ2倍の規模を持ち、再結合磁場強度も2kGに達し、Fig. 4ではkeV以上のイオン温度が期待される。合体立ち上げとソレノイドコイル(CS)立ち上げを比較したプラズマ電流、電子温度、イオン温度の時間変化をFig. 6に示す[11]。合体運転の場合は電源が不十分でプラズマ電流がCS立ち上げの半分の300kA程度 であるにもかかわらず、イオン温度は1.2keVでCS立ち上げの2倍、電子温度も0.8keVでCS立ち上げを上回ることがわかる。特徴的であるのはその加熱速度である。比較のため、Fig. 6(b)に合体立ち上げのイオン温度、電子温度の時間変化を書き込むと赤線のようになり、10msec程度の短時間でkeVの加熱が得られたことがわかる[11]。このデータをFig.5にプロットすると赤点のようになり,再結合磁場の2乗に比例するリコネクション加熱比例則によく一致することがわかる。このスケーリングを延長すれば,核融合炉の点火に必要な5-10keVのイオン温度は再結合磁場を0.5-0.7Tに上昇すれば得られることになる。これは核融合炉点火に,中性粒子ビームや高周波などの追加熱を必要とせず,合体だけで良いことを意味しており,大きな意義がある。

3. まとめ

以上のようにプラズマ合体は、従来、リコネクション物理の解明に用いられてきたが、近年は、その応用にも目処が得られてきた。具体的に、1)リコネクション加熱、2)超高ベータSTの生成、3)STの電流駆動・分布制御、4)燃料の供給、ヘリウム灰の除去などいろいろな応用が図られているが,一番成果をあげているのはリコネクション加熱とそれに伴う超高ベータSTの生成と言える。リコネクション加熱の特徴は、再結合する磁場成分のエネルギーを高効率で変換し、磁場の二乗に比例してMW、GWの加熱パワーが簡単に得られる点、エネルギー閉じこめ時間以下の短時間(異常抵抗を考慮したSweet-Parker時間)の加熱となる点、さらに高ベータ不安定の成長時間以下で高ベータ化することも可能である。これはNBIに頼らない超高ベータST立ち上げや核融合点火させる運転シナリオが可能になろう。第2安定状態の超高ベータSTを簡便に生成して成長されるシナリオ,色々な超高ベータSTを生成してそれらの安定性をテストするといった新たな実験も可能である。世界的にも合体実験は、磁気リコネクションの物理実験からリコネクション加熱を中心とする合体応用研究に分野が広がり、特にリコネクションによる急速加熱・核融合点火のアイデアは英国のベンチャー企業トカマクエネジー社に採用されて,新ST合体加熱実験装置であるST-40の建設がはじまっている。東京大学も新規予算により高磁場リコネクション加熱実験に向けたアップグレード装置TS-Uが稼働をはじめ,トカマクエナジー社でも装置建設に協力している。今後は新規リコネクション加熱実験やベンチャー企業を中心にリコネクション加熱応用が本格化するものと思われる。

参考文献

[1] D. R. Wells, Phys. Fluids 9, (1966) 1010.

[2] Y. Ono et al., in Proc. IEEE Int. Conf. Plas. Sci., (Saskatoon, 1988) p.77; Y. Ono et al.,J. Plasma Fus. Res. 56, 214 (1986); Y. Ono et al., Phys Fluids B6, 3691, (1993); Y. Ono et al., Phys. Rev. Lett. 76, 3328, (1996).

[3] Gryaznevich M. et al 1992 Proc. 14th Int. Conf. on Plasma Phys. Cont. Nuc. Fusion Res. (Wuerzburg, Germany) vol. 2, (Vienna: IAEA). p 575, (1992); M. Yamada, Y. Ono, A. Hayakawa, M. Katsurai, F. W. Perkins, Phys. Rev. Lett. 65, 721 (1990).

[4] Y. Ono, H. Tanabe, Y. Hayashi, T. Ii, Y. Narushima, T. Yamada, M. Inomoto and C. Z. Cheng, Phys. Rev. Lett. 107, 185001, (2011)..

[5] Y. Ono et al., Phys. Plasmas 4 1953 (1997).

[6] M. Gryaznevich, V. Shevchenko and A. Sykes, Nucl. Fusion 46 (2006) S573-S583.

[7] J. Egedal and A. Fasoli, Phys. Rev. Lett. 86, 5047, (2001). [8] Y. Ono, Y. Hayashi, et al., Phys. Plasmas 18, 111213, (2011).

[9] M. Yamada et al., Phys. Plasmas 4, 1936, (1997).

[10] Private communication.

[11] Y. Ono et. al, to be published in Plasma Physics Controlled Fusion.

[12] E. N. Parker, J. Geophys. Res. 62, 509 (1957); Astrophys. J. 264, 642 (1983).

[13] R. Horiuchi and T. Sato, Phys. Plasmas 4 27, (1996).

[14] Y. Ono et al, Phys. Plasmas 7, 1863. (2000).

[15]井,小野:「磁場反転配位を用いた超高ベータ球状トカマクの生成実験」プラズマ・核融合学会誌76,553, (2000).

[16] Y. Ono, et. al, Nucl. Fusion 43, 789, (2003).

[17] Y. Ueda and Y. Ono, Nuclear Fusion 41, 981, (2001).

[18] S. Inoue, Y. Ono, et al., to be pulished in Fusion Energy 2012, PD/P8-17 ,(2013).

[19] K. Yamasaki et al., “Electron heating during magnetic reconnection in the UTST merging experiment”, in Proc. 20th International Toki Conference.