球状トカマクとFRCの境界領域はおもしろい!

FRCを用いた超高ベータ球状トカマクの生成


東京大学・大学院新領域創成科学研究科

小野 靖

Approach from the Field-Reversed Configuration (FRC)

ONO Yasushi

7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8656, Japan,

Abstract

High-beta boundary regime between spherical tokamak (ST) and field-reversed configuration (FRC) has received increased attention based on recent theoretical and experimental studies of the second stable STs. An ultra-high-beta (50-70%) ST was produced in the TS-3 merging experiment by applying an external toroidal field to an oblate FRC. The high-beta ST had a diamagnetic toroidal field in sharp contrast with low-beta STs with strong paramagnetic toroidal fields. The theta-pinch FRC formation method was used in the NUCTE experiment to produce highly elongated and high-beta ST . Its q-value reached as large as 90, because of its highly elongated separatrix shape with elongation factork=5~10. High-beta properties of FRCs such as their hollow current profile and sharp pressure gradient at the edge in TS-3 and large elongation in NUCTE were maintained in those ST experiments, suggesting a close relationship between FRCs and high-beta STs.

Keyword: ST, FRC, second stability, ballooning instability, beta limit, elongation, theta pinch

1.はじめに

現在の球状トカマク(ST)研究の高まりは、第1に大型、巨額になりがちなトカマク型実用炉への懸念から、もっとコンパクト・高ベータで経済的な核融合炉を開発したいとの機運、第2にSTART球状トカマク実験での高ベータと高閉じ込めの両立の成功、第3によりクリーンな次世代燃料炉に必要な高ベータ配位を追求すべき等の認識に根ざしている。共通するのは、旧来のトカマクの上限であった平均10%を大幅に越える高ベータ状態がST研究によって実現され、この領域の本格的な検証が開始されたことである。STARTでは4msecの閉じ込め時間を保ちつつ、20%の平均ベータ値が得ており[1]、STがどこまで高ベータ化できるかは、当該研究分野の中でも最も興味ある課題といえよう。大切な点は、STは単なるトカマクの変形ではなく、高ベータ配位である逆転磁場配位(FRC)に代表されるコンパクトトーラス配位に極めて近いことである。FRC、スフェロマック、逆転磁場ピンチ(RFP)・・・こうしたコンパクトトーラス配位はトカマクの兄弟でありながら、その相互関係、例えばβ値や配位形状の関係はあまり真剣に追求されてこなかった経緯がある。

2.球状トカマクと逆転磁場配位は似ている!?

STの磁力線は中心対称軸に近い部分ではトロイダル方向に何回も周回して高qトカマク類似の配位となっているのに対し、外側の磁力線はポロイダル磁場成分がほとんどであり、FRCやスフェロマックのそれに類似している。STがトカマク、FRC、スフェロマックの3者の中間に位置していることがわかる。図1に平均ベータ(β)値と安全係数(q値)の空間に、内部電流系トーラス配位のすべてをプロットしてみた。FRCから逆転磁場ピンチ配位(RFP)、スフェロマック、通常トカマクとなるに従って、プラズマq値が上昇して行く。これらの中ではFRCとSTのみがそれぞれ70%以上、20%と大きなβ値を持つのに対し、その他の配位の最大β値はいずれも10%前後にとどまっている。この事実を裏付ける物理として、FRCが反磁性電流を持ち、STも条件によってその可能性があることがあげられる。配位の熱圧力pは×の力によって支えられているので、ベータ値(熱圧力と磁気圧の比)はプラズマ電流の極性によって大きく変化する。

p=×—— (1), (∇p)r=jtBz-jzBt—— (2)

対照的なのはFRCとスフェロマックである。jtBz 成分のみを有するFRCはjtBz=dp/drより完全反磁性で、ポロイダル磁気圧の収縮力がプラズマの熱圧力と釣り合った平衡といえる。スフェロマックの場合には熱圧力がトロイダル磁気圧(膨張力)に置き換って、

×=0, (∇p)r=jtBz-jzBt=0となって無力磁場配位を形成し、プラズマ電流jzは常磁性である。STの場合、中心のトーラスコイルによって与えられたトロイダル磁場Btに対して、常磁性あるいは反磁性のポロイダルプラズマ電流が流れるかでベータが低いか高いかが決まる。STはスフェロマックに似るよりFRCに似る方が望ましいことになる。

Fig. 1 ST, FRC, spheromak, RFP and (conventional) tokamak in the space of averaged beta and center q value.

3.球状トカマクの第2安定化を目指す!

STの高ベータ化への大きな関門はバルーニング不安定の抑制である。最近のバルーニング不安定の理論研究により、STのバルーニング不安定は第1安定領域と第2安定領域の間に窓ができることがわかってきた[2]。図2(a)(b)に通常のトカマクとアスペクト比が1.5を下回るSTのバルーニング不安定に対する不安定領域の例を示す[2,3]。qΨとpΨは

qΨ=dq/dΨ ———-(3), pΨ=dp/dΨ ———-(4)

と定義される。但しΨは正規化されたポロイダル磁気面関数である。ここで不安定領域の左側の領域(qΨ大、pΨ小)は第1安定化領域で、従来の低ベータSTが該当する。これに対して、不安定領域の右下(qΨ小、pΨ大)の領域は第2安定化領域と呼ばれ、この配位では事実上、バルーニング不安定によるベータ値の制約がなくなることが期待される。理論解析によれば、大きな熱圧力勾配と磁気シアーが配位の端部にあり、コア部分のそれらが小さい配位が得られている。通常のトカマクの場合は両領域を結ぶ窓がほとんどなく、第1安定領域の低ベータトカマクを第2安定領域の高ベータトカマクに安定に遷移できないが、STは両領域間に窓を持つので、これが可能である。問題は両安定領域間の窓が意外と狭く、精緻なプロファイル制御が必要になることである。立ち上げフェーズでは、端部で大きな磁気シアと圧力勾配をつくるため、極端にホローな電流分布をオーム加熱コイルの速い立ち上げと強力な中性粒子ビーム加熱によって強引に作る必要がある。

Fig. 2 qΨ−pΨ diagrams of (a) conventional tokamak (aspect ratio A≈5), (b) low aspect ratio tokamak (ST) (A<1.5) [2,3,5,6].

4.第2安定領域の球状トカマク生成の新アイデア[5,6]

球状トカマクの高ベータ化の一つのキーは如何にプラズマ電流を反磁性側に近づけることができるかである。発想を新たにして、FRCで得られた超高ベータ特性を球状トカマクのアイデアの中に取り込む新しい視点は、東京大学TSグループの超高ベータST生成実験[5,6]が契機となって次第に認識されつつある。それは、反磁性電流と70%以上の高いベータ値を持つFRC(qΨ=0、pΨ大)に後から外部トロイダル磁場を加えることによって、第1、第2安定領域の間の狭い窓を通すことなしに第2安定化領域内の高ベータSTを生成するものである。その過程は図2(b)のqΨ-pΨダイヤグラムのようになり、従来とは異なった方向から第2安定領域を目指すため、バルーニング不安定を起こさずに簡便に超高ベータSTを生成できる可能性がある。超高ベータSTの生成過程は図3(a)のTS-3実験装置にて実証された。同装置は、全長1m、内径0.8mの円筒真空容器を有し、Z-θピンチ方式を用いてスフェロマックを2個同時に生成可能である。プラズマの大きさはトーラスの大半径が約0.2m、アスペクト比1.5である。図4に示すように、互いに逆向きのトロイダル磁場を有する2個のスフェロマックを合体させ、まずトロイダル磁場の無いオブレートなFRCを生成する。これは合体するスフェロマックのトロイダル磁気エネルギーが磁気リコネクションの効果でFRCのイオン熱エネルギーに変換されるためである[7]。次ににトーラスコイル電流を15µsec程度で20kAまで立ち上げてトロイダル磁場を印加し、超高ベータSTを生成する。図4ではその過程をr−z平面上に設置された2次元磁気プローブにより計測している。興味ある点は生成された超高ベータSTは反磁性のトロイダル磁場を有することである。低ベータSTでは、トカマクの低アスペクト比化による常磁性のトロイダル磁場が磁気軸を中心に大きく見られるのに対して、高ベータSTでは真空磁場よりトロイダル磁場が小さくなっている。これは、このSTが反磁性トロイダル磁場を持ち、反磁性ポロイダル電流のjp×Btの力がプラズマ熱圧力を支える向きとなっていることを意味している。図5に磁場分布の2次元直接計測から、高ベータSTと低ベータSTのポロイダル磁気圧、トロイダル磁気圧、熱圧力の径方向分布を計測した結果を示す。低ベータSTではポロイダル磁気圧の収縮力が常磁性トロイダル磁気圧の膨張力がつりあって小さな熱圧力しか保持されないのに対して、高ベータSTではポロイダル磁気圧も反磁性トロイダル磁気圧も収縮力となって、大きな熱圧力が保持されている。体積平均ベータ値を計算すると、通常の低ベータSTの20%に対して、高ベータSTでは60%とFRCの80%にはおよばないものの、極めて高い値となっている。

Fig. 3 TS-3 ST/FRC device at University of Tokyo.

Fig. 4 FRC formation by use of two merging spheromaks with opposing toroidal field and equilibrium transition from the produced FRC to an ultra-high-beta ST (its basic idea and time evolution of poloidal flux contour with toroidal field amplitude measured by magnetic probe array).

Fig. 5 Radial profiles of poloidal field pressurepp(=jtBz), toroidal field pressure pt (=jzBt) and total pressure ptotal of (a) FRC, (b) high-beta ST and (c) low-beta ST.

生成した超高ベータのSTがいかなる理由で、100µsecの電流駆動中、安定に存在するのかは重要な問題である。特にバルーニング不安定がどのように安定化されているかは興味深い。そこで、×の力から求められたプラズマ熱圧力の勾配とq値の勾配を基に、文献[6]に上記高ベータST、低ベータSTのqΨ-pΨダイヤグラムを示したので参照いただきたい。高ベータSTの磁気シアーと圧力勾配はプラズマの端部で大きく、中心部で小さいのに対し、低ベータSTは端部の圧力勾配が小さく、値が大きくなるのは配位の中程である。従って、高ベータSTのqΨ-pΨ分布は配位の中心から端に向かって大きく右に向かって存在しているのに対して、低ベータSTのそれは逆に同じ付近から左へ分布し、図2との比較により、高ベータSTが第2安定領域付近にあることがわかってきた[6]。

5.まとめ

球状トカマク研究を中心に、野心的に閉じこめ方式の小型化と高ベータを追求する機運が米国・英国を中心に高まっている。第2安定領域の超高ベータSTや高楕円度STの安定性や閉じ込めの解明は極めて興味深く、超高ベータ磁気閉じ込め研究の本格的な始まりを告げるものとしてST研究の大きな魅力になっている。例えばFRCから生成した高ベータSTが反磁性ポロイダル電流と従来考えられないような高いベータを有することは、第2安定領域のSTを大型装置で本格的に検証する価値があることを強く示唆している。こうした成果の一方で、高ベータSTにはその極端にホローな電流分布による電流駆動型不安定も予測されているため[8]、現在の実験にはプラズマの長時間観測が必要である等、検討すべき点も多いことも事実である。将来の第2安定領域の高ベータSTはそうした不安定の問題を解決していくことが求められており、次のステップの研究が待たれるところである。

参考文献

[1] A. Sykes, Phys. Plasmas 4, 1665, (1997).

[2] R. L. Miller, Y. R. Lin-Liu et al., Phys. Plasmas 4, 1062, (1997).

[3] J. M. Greene and M. S. Chance, Nucl. Fusion 21, 453, (1981); J. Wesson, in “Tokamak”, (Clarendon Press, Oxford 1987), p. 160.

[4] T. C. Hender, S. J. Allfrey, et. al., Phys. Plasmas 6, 1958, (1999).

[5] Y. Ono, M. Inomoto et al., “Merging Formation of FRC and its Application to High-Beta ST Formation”, to be published in Fusion Energy 1998, Yokohama (International Atomic Energy Agency, Vienna, 1999); Y. Ono and M. Inomoto, “Ultra-High Beta Spherical Tokamak Formation by Use of an Oblate FRC”, Phys. Plasmas 7, 1863, (2000)..

[6] 井、小野「逆転磁場配位を用いた超高ベータ球状トカマクの生成実験」プラズマ・核融合学会誌76, 3328, (1996)

[7] Y. Ono, M. Yamada et al. , Phys. Rev. Lett. 76, 553, (2000).

[8] J. Menard, private communication in 1999.