合体加熱を用いた超高ベータ核融合プラズマ生成

球状トカマク同士を合体させる場合には理想的には初期ポロイダル磁気エネルギーの半分程度がプラズマ(主としてイオン)の熱エネルギーに転換されるため、リコネクション時間程度の短時間にポロイダルベータ~1の高ベータ状態が形成可能である。一方で、前述の異極性合体を用いてトロイダル磁気エネルギーをプラズマ加熱に寄与させることによって、ポロイダルベータ>1の超高ベータ状態の形成が可能と考えられるが、異極性合体においては合体する二つのトーラスプラズマが互いに逆向きのトロイダル磁場を有している必要があるため、二つのプラズマを取り巻く外部コイルによる準定常トロイダル磁場の下で異極性合体を実現することはできない。

そこで、ポロイダルベータ>1の超高ベータSTの形成手段として、スフェロマック異極性合体を行った後に速やかに外部トロイダル磁場を立ち上げるという方法が提案されている[14]。TS-3実験では、Fig. 7 に示すように、異極性合体時の磁気リコネクションによって150eVを超える急速イオン加熱が実現されており、その後に外部トロイダル磁場を立ち上げることによってST配位への遷移を行っている[14-16]。このようにして生成された超高ベータSTのトロイダル電流密度およびトロイダル磁場の径方向分布をFig. 8 (a)(b)に、合体を用いない低ベータSTのトロイダル電流密度およびトロイダル磁場の径方向分布をFig. 8 (c)(d)に示す[15]。この超高ベータ状態では、異極性合体による大きな加熱効果がHollowな電流分布をもたらし、高ベータプラズマに後から外部トロイダル磁場を印加することによってプラズマ内部に反磁性のトロイダル磁場分布を形成している。これら2つの特徴的な効果の複合によって特にプラズマ端部付近で大きな圧力勾配が保持されており、結果的に極めて高い(>0.6)トロイダルベータを有するST配位が実現されている。結果として、リコネクション加熱により、高ベータ不安定の成長時間以下の短時間(Sweet—Parker時間程度)でいろいろなベータを持つSTを生成することができた。それをトロイダルベータとI/aBtの空間にプロットすると第2.1章のFig. 2のようになる。ベータが1に近い超高ベータの平衡もあるが、FRCにトロイダル磁場を印加しただけの不安定な状態もあり、多くが不安定である。リコネクション加熱時間の短さのために不安定な配位も生成可能である点は大きな特徴である[16]。

超高ベータでかなり安定なSTも生成され、例えばFig. 9(a) のCase Aは超高ベータながら絶対極小磁場配位を持つ反磁性トカマクである。形成された超高ベータ状態は、バルーニングモードに対する第二安定化領域に位置していること[4]に加えて、磁気軸付近における絶対極小磁場構造と、異極性合体に由来するアルベーン速度の50%程度に達するトロイダルシアフローを有しており、MHD不安定性が抑制されていると考えられる[16]。

Fig. 9に合体生成した高ベータSTのs-a ( qYpY) ダイヤグラムを描いてバルーニングモードに対する安定性を解析した例を示す。第2.1章のFig. 2のCase Aの代表的な磁気面に関する結果がFig. 9上のAであり、明らかに第2安定状態に位置していることがわかる。同様に第2.1章のFig. 2のCase B,C,Dについて解析した結果をやはりFig. 9上下に示す。Case Bはベータ40%で不安定な例、Case Cはベータ20%で安定な例、Case Dはベータ40%で不安定な例である。Fig. 9上下を比較すると不安定領域がかなり異なっていることがわかる。これは配位の電流分布などにより大きく変化し、一般に圧力・電流分布のbroadnessとhollownessを強めていくと、第1・第2安定領域の間の窓も次第に大きくなるとの興味深い知見が得られている[16]。ただ、こうした分布は電流駆動型モードに対して不安定になりがちで注意を要する。超高ベータ状態の安定性や閉じ込め特性はまだ不明点が多く、例えば、hollowな電流分布に起因する圧力・電流駆動型の不安定の解析やより詳細なバルーニング不安定の解析などの更なる検証が必要である。現状では同種の実験は小型装置における短パルス運転に限られているが、今後はより大型の合体実験装置において追加熱による超高ベータ状態の維持を実現することが急務となろう。