研究成果
我々は、既に15年以上にわたる高ベータプラズマに関する研究実績を有し、プラズマ合体実験といった世界的トレンドを作るなど、核融合磁気閉じ込め研究から宇宙プラズマ研究まで広い波及効果を有する先導的な研究成果をあげてきた。同計画の特徴は、大学らしい比較的小規模の高ベータプラズマ実験装置群と加熱系を機動的に駆使して、特長あるファーストステップの磁気閉じ込めアイデアの提案・実証を行ってきたことである。現在の主力装置であるTS-3、TS-4、UTST球状トーラス合体実験装置は、
- 複数のトーラスプラズマの合体、X点の形成が可能なプラズマ基礎物理研究、応用開拓装置
- 単一の装置で低q値から高q値までの内部電流系トーラスプラズマが全て生成・比較できる閉じ込め物理研究装置
として、その独創性が高く評価されており、1994年以降プリンストン大学に始まるプラズマ合体・Xポイント実験装置建設の流れを先導してきた経緯がある。
研究のキーワードは、
- プラズマ合体と
- 低アスペクト比トーラス
であり、内外の評価の高い研究テーマ例は以下の通りである。
参考文献
(1)小野靖:「夢は安価でコンパクトな核融合炉をつくること」Techno Dream 02 東大工学部がわかる本 日経BPムック
(2)小野靖:「未来を照らす、人工太陽」工学見聞録学生が作る工学部広報誌 Ttime! 増刊号 2012
A.磁気リコネクションを用いた急速・大出力加熱・核融合点火
球状トカマク(ST)の効率よい初期加熱法,さらに簡便な核融合反応点火の手法として、ST同士の軸対称合体が利用できることを明らかにした。kG以下の磁場強度の小規模(大半径: 0.2m)実験でありながら、最大10MWもの加熱エネルギーが容易に得られることが判明した。加熱の正体は磁気リコネクションによるイオンの異常加熱で あり、その大きさは外部から印加するトロイダル磁場を大きくするほど小さくなることがわかってきた。これは,自然の太陽のコロナで合体・リコネクションが繰り返し行われ。それがコロナを大きく加熱しているという最新成果を人工太陽の急速加熱に応用した新アイデアである。リコネクションのアウトフローがSweet-Parkerモデルのようにプラズマイオンをアルヴェン速度程度まで加速し、それが下流領域で、ファーストショックや粘性によって熱化するためである。この加熱は磁場の二乗に比例し、磁場に対して急速に増加する。サイズへの依存性はなく,小型プラズマでも合体の大出力・急速加熱により,核融合反応をスタートさせることを可能にするものと期待されている。平成27年度より,科学研究費基盤(S)による大型プロジェクト研究に大きく発展している。また,加熱特性の良さから、さらにの初期加熱効果を応用して、過渡的に50%前後の高 いベータ値をq値の異なるST、スフェロマック、RFPに与えて、いかに高ベータ型平衡が安定に維持されるかについて実験的な比較を行うことに成功した。
主な研究論文
(1)小野靖:「特集:物理化学,この1年:流体力学,プラズマ物理:プラズマ中の磁力線再結合と巨大加熱」, パリティ 28, pp.14-15, (2013).
(2) 小野:「小特集 俯瞰と展望:磁気リコネクション研究の最前線,4.新たな磁気リコネクション研究の芽,4.4 リコネクション応用の開拓」,プラズマ核融合学会誌、第89巻,第12号,2013年12月,pp. 857-860.
(3)Y. Ono, H. Tanabe, Y. Hayashi, T. Ii, Y. Narushima, T. Yamada, M. Inomoto and C. Z. Cheng, “Ion and Electron Heating Characteristics of Magnetic Reconnection in a Two Flux Loop Merging Experiment”, Physical Review Letters Vol. 107, No. 18, 185001(5pp), (2011).
(4)Y Ono, H Tanabe, T Yamada, M Inomoto, T Ii, S Inoue, K Gi, T Watanabe, M Gryaznevich, R Scannell, C Michael and C Z Cheng, “Ion and electron heating characteristics of magnetic reconnection in tokamak plasma merging experiments”, Plasma Physics and Control. Fusion Vol. 54, No. 11, 124039 (11p), (2012)
リコネクション加熱や核融合炉点火について
リコネクション加熱を使った超高ベータプラズマ生成による経済性向上
B.太陽研究を通じた人工太陽=核融合の新アイデアの創造
ー例えば,プラズモイド放出を用いた動的ダイバータの創造ー
自然の太陽と人工太陽の双方を研究することにより,人工太陽=核融合を安価に効率よく成功させる新アイデアを創造し,高い評価を得ている。A.につづき,注目されているのが,プラズモイド放出を用いた動的ダイバータの提案・実証である。核融合炉は,燃えかすのヘリウムの排気を行う必要があり,今は核融合閉じ込め配位の一番外側の磁力線をX点を介して外に取り出して、ダイバータ板に当ててプラズマを中性ガスに変えて排出する方法がとられているが,ダイバータ板の熱負荷は極めて大きく,タイプIのエルムとよばれる少し大きな炉心の不安定により,大きなダメージを受けてしまう。自然の太陽コロナを観察するとX点にはプラズモイドとよばれる磁気島が発生して排出されている。人工太陽=核融合でも,主プラズマの端部にX点を介したプラズモイドを形成して,常にダブレット配位としながら,そのプラズモイドを交互に排出して,排出されたプラズモイドに思い切ったガスパフを加えて冷却し,熱負荷を十分に低減した後にダイバータ板に連結する新アイデアを提案・実証を進めている。既に,科学研究費挑戦的萌芽研究として,実証が行われ,球状トカマクの端部にプラズモイドを形成し,繰り返し排出する実験に成功している。
FIG. 1. Plasmoid ejections from core-(tokamak) plasma in (a) TS-4 plasmoid experiment by use of two poloidal field coils, (b) PIC simulation by use of slab model. (c) Schematics of the dynamic divertor operation: (1) plasmoid formation/ pinch-off from a core-plasma, (2) translation with gas-puff cooling and (3) connection with a divertor plate.
FIG. 2. Time evolutions of the poloidal fluxes (contour lines) during plasmoid ejection in (a) TS-4 experiment and (b) the PIC simulation. The color in (a) indicates the toroidal current density. The blue lines indicate axis positions of the plasmoids.
主な研究論文
(1)小野:「小特集 球状トカマク研究の進展-核融合エネルギー開発に向けて- 2.最近の研究成果と研究動向2.4 球状トカマク合体の応用」、プラズマ核融合学会誌、第88巻,第12号,2013年1月,pp.733-739.
(2) Y. Ono, S. Inoue, Y. Hayashi, R. Horiuchi, “Plasmoid Ejection Mechanism in Dynamic Divertor Experiment and Simulations”, Fusion Energy 2014, PD/P5-5 (8pp), (2014).
C.スフェロマックの異極性合体を用いたFRCの高効率生成
FRCの問題点であった高速・低効率の配位生成に対し、互いに逆向きのトロイダル磁場を有する2個のスフェロマックの合体を用いて低速・高効率のFRC生成を可能とする独自のアイデアを実証したものある。合体の際の高効率のイオン加熱効果の検証によるFRC生成の原理の実証や、オーム加熱コイルを用いた初めてのFRCの磁束増倍実験・長時間電流駆動実験の成功などにより、新段階のFRC閉じ込め研究を可能にする手法として、内外より期待が集まっている。NASAのSWIFT-FRC装置、プリンストン大学のSPIRIT装置、核融合科学研究所FRC実験設備をはじめとする内外研究所において次期装置の候補となっている。
主な研究論文
(1) 小野:「小特集 極限的高ベータプラズマ閉じ込め:FRC研究の新展開 3.3 合体によるFRC生成とCSコイルによる磁束増倍」、プラズマ核融合学会誌、第84巻,第8号,2008年8月,pp.518-521
(2)Y. Ono, T. Matsuyama, K. Umeda and E. Kawamori, ” Spontaneous and Artificial Generation of Sheared Flow in Oblate FRCs”, Nuclear Fusion Vol. 43, No. 8, (2003), pp. 649-654.
(3) T. Ii, M. Inomoto, K. Gi, T. Umezawa, T. Ito, K. Kadowaki, Y. Kaminou and Y. Ono, “Stability and confinement improvement of an oblate field-reversed configuration by using neutral beam injection”, Nuclear Fusion 53, 073002 (5pp), (2013).
(4)Y. Ono, M. Inomoto, Y. Ueda, T. Matsuyama, and T. Okazaki: “New Relaxation of Merging Spheromaks to a Field-Reversed Configuration”, Nuclear Fusion, Vol. 39, No. 11Y, (1999), pp. 2001-2008.
(5) Y. Ono, A. Morita, T. Itagaki, M. Katsurai: “Merging of Two Spheromaks and Its Application to Slow Formation of Field-reversed Configuration (FRC)”#8221;, Plasma Physics and Controlled Nuclear Fusion Research 1992, Vol. 2, pp. 619-625.
(6)Y. Ono, M. Yamada, T. Akao, T. Tajima and R. Matsumoto: “Ion Acceleration and Direct Ion Heating in Three-Component Magnetic Reconnection”, Physical Review Letters, Vol. 76, No. 18, pp. 3328-3331, (1996).
D.FRCを用いた超高ベータ球状トカマクの生成
ベータ値が90%に達するFRCに後から外部トロイダル磁場を印加することにより、第2安定領域の超高ベータ球状トカマクが生成できることを初めて提案・実証した。スフェロマックの合体によって生成したFRCの持つ反磁性特性がそのまま維持されたため、従来の常識を破る反磁性特性を持つ球状トカマクの生成が確認され、そのベータ値は70%に達することが判明した。同球状トカマクはホローな電流分布を持ち、高い熱圧力を効率よく閉じ込める他、その配位構造は熱圧力勾配と磁気シアーが共に配位端部で高い特徴があり、バルーニング不安定に対する第2安定化領域に入ったことが強く示唆されている。1999年米国物理学会招待講演となるなど、内外より高く評価されている。
主な研究論文
(1)小野:「小特集 球状トカマク研究の進展-核融合エネルギー開発に向けて- 2.4 球状トカマク合体の応用」、プラズマ核融合学会誌、88, pp.733-739, (2013)
(2) Y. Ono, T. Kimura, E. Kawamori, Y. Murata, S. Miyazaki, Y. Ueda, M. Inomoto, A. L. Balandin and M. Katsurai “First and Second-Stable Spherical Tokamaks in Reconnection Heating Experiments”, Nuclear Fusion, Vol. 43, No. 8, (2003), pp. 789-794.
(3)Y. Ono and M. Inomoto: “Ultra-High Beta Spherical Tokamak Formation by Use of Oblate Field-Reversed Configuration”, Physics of Plasmas(invited paper), Vol. 7, No. 5, (2000), pp. 1863-1869.
E.磁気閉じこめのキーとなる磁気リコネクション現象の解明
磁気閉じ込めに本質的な磁力線のトポロジー変化のキーとなる磁気リコネクション現象ををプラズマ合体を用いた独自手法により実験的に初めて検証したもので、磁気リコネクションの3成分磁場構造効果の発見や、Xポイントのイオン加速・異常加熱の実証などがあげられる。特に、磁気リコネクションの速さを決定する異常抵抗が電流シート幅がイオンラーマ半径以下に圧縮された時に発生する点を見出したことは、磁気リコネクション実験研究を従来の電磁流体力学(MHD)領域から粒子運動領域に高めるものといえる。これらの成果は内外より評価され、プリンストン大学MRX、スワルスモア大学SSXをはじめとする米国における複数の類似装置の建設の流れを先導した他、2000年の東京大学を代表する国際会議として、実験室と宇宙観測と計算機解析・理論との3者が協力して、磁気リコネクションの物理を解明する「東大シンポジウム」”University of Tokyo Symposium 2000 on Magnetic Reconnection in Space and Laboratory Plasmas (MR2000)”を主催するに至っている。Parker, Petchekをはじめとする同分野の著名な研究者のほほすべてを含む140名を集めて会議を開催し、3者の提携により多くの未知の物理の解明に進展があった。
主な研究論文
(1)T. Ii and Y. Ono, Spontaneous three-dimensional magnetic reconnection in merging toroidal plasma experiment, Physics of Plasmas 20, 012106 (7pp), (2013), 10.1063/1.4774403.
(2)草野,小野:「小特集 俯瞰と展望:磁気リコネクション研究の最前線,2.高速リコネクション機構の最新研究,2.5三次元磁場構造が引き起こす爆発的現象」,プラズマ核融合学会誌、第89巻,第11号,2013年11月,pp. 780-783.
(3)Y. Ono, M. Inomoto, T. Okazaki and Y. Ueda: “Experimental Investigation of Three-Component Magnetic Reconnection by Use of Merging Spheromaks and Tokamaks”, Physics of Plasmas, Vol. 4, No. 5, Pt. 2, (1997), pp. 1953-1962 (Invited Paper).
東京大学シンポジウムのポスター
F.球状トカマクの極低アスペクト比化(~1.05)と巨視的不安定の実証
一般にコンパクトトーラスとはプラズマ内を流れる電流によって閉じ込め磁界を発生する方式であって、将来の核融合炉の構造を著しく単純化するものと期待されている.この方式を特徴づけるものはアスペクト比(トーラスプラズマの主半径と副半径の比で,これが小さいということはドーナツ形状よりもずんぐりした球形に近いということ)が1近くまで低下させた構造である.アスペクト比を1.05の極限まで低下させた球形トカマク(ST)を初めて実現し、アスペクト比の低下に従って、巨視的n=1不安定の抑制に必要な中心コイル電流値が急激に低下することを発見した。このSTの巨視的不安定の基礎を構築の他、STの合体による電流駆動、ダイナモ現象などの解明が内外より評価され、国内外の共同研究が行われてきた経緯がある。本成果は、米国のPegasus等の極低アスペクト比トカマク実験などのULART、ELART分野の研究を先導したといえる。
主な研究論文
(1)A. Morita, Y. Ono, M. Katsurai and M. Yamada: “Experimental Investigation on Tilt Stabilizing Effect of External Toroidal Field in Low Aspect Ratio Tokamak”, Physics of Plasmas, Vol. 4, No. 2, 315-322, (1997).
(2)M. Yamada, N. Pomphrey, A. Morita, Y. Ono and M. Katsurai: “Global Stability Study of the Ultralow Aspect Ratio Tokamak, ULART”, Nuclear Fusion, Vol. 36, No. 9, pp. 1210-1216, (1996).
G.ST, FRC, Spheromak, RFPの物理の単一装置による相互比較
ST, FRC, Spheromak, RFPのすべてが生成できるTS-3/4実験装置の特長を駆使して、これらの配位の安定性や閉じ込め物理の相互関係の解明を行ってきた。特に、STとFRCを融合した内部電流系トーラスの最適化の試みは他に類がなく、米国プリンストン大学SPIRIT実験などの類似の実験装置建設を先導するに至っている。
OHコイルのトロイダル電流駆動に対して、RFPの軸方向合体によるポロイダル電流駆動を組み合わせてRFPの電流駆動を行うと、ダイナモが抑制されて磁場揺動が1/3以下になることを実験的に明らかにした。この成果は2000年IAEA国際会議論文として採択されている。
(1)Y. Ueda and Y. Ono: “Experimental Comparison of Compact RFPs, Spheromaks, and STs Using Controlled Current Drive”, Nuclear Fusion, Vol. 41, No. 8, (2001), pp. 981-984.
H.核融合プラズマの電流駆動法の開発
コンパクトトーラス方式においては、将来、完全定常動作を確保するためにはなんらかの非誘導電流駆動法を適用する必要があり、その有力候補としてヘリシティー注入法と呼ばれるものが注目されてきた.この方法を具体化したものとしてプラズマ合体法を提案し、当グループにおいては先駆的にこの配位の実験研究を行ってきた.最近、新提案のCTプラズマ合体を用いた制御性に優れた周辺電流駆動を実現し、アスペクト比(A)1.5程度のCTの平衡・安定性、特にダイナモ現象を初めて単一装置で相互比較することができた。図1に示すように、CTの軸対称合体は、選択的にトロイダル磁束(周辺ポロイダル電流)のみを注入する効果がある。一方、オーム加熱コイルによる電流駆動はポロイダル磁束(トロイダル電流)を注入するので、組み合わせて用いれば、ポロイダル、トロイダル両磁束(両電流)がバランスした新しい持続的な電流駆動が可能となる。合体による周辺電流駆動法は、従来のトロイダルコイルを用いたポロイダル電流駆動法に比べ、(1)連続的(断続的)な周辺電流駆動が可能になる、(2)合体するCTの大きさ、磁場の選択によって広範囲の電流分布制御が可能になる、(3)合体による大きなイオン加熱が期待できる、等の利点がある。
(1)Y. Ueda and Y. Ono: “Experimental Comparison of Compact RFPs, Spheromaks, and STs Using Controlled Current Drive”, Nuclear Fusion, Vol. 41, No. 8, (2001), pp. 981-984.